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ブライアン・フェリーを聴く夜 [音楽]

夜に聴きたい音楽というのはたくさんあるものです。

一日の仕事(あるいは勉強)を終えて夜に一人、ちょっとお茶や酒でも飲みながらひと時を過ごしたい時に聴く。音楽の素敵な楽しみ方です。

最近はもっぱらジャズばかりを聴いているのですが、今でも時折聴くと、つい夜の深みにはまり込んでしまう音楽があります。

 

それがブライアン・フェリーの音楽です。

 

ブライアン・フェリーの音楽に初めて触れたのは80年代の高校生の時。彼が率いていたバンド、ロキシー・ミュージックが解散して間もない頃でした。バンド解散後に発表されたソロアルバム『BOYS AND GIRLS』は、85年のライブ・エイドをテレビで見てからLPを買いました。

まず驚いたのは音数の多さです。まさにプロフェッショナルと呼べるミュージシャンと当時の録音技術とを総動員して作られたアルバムであることを知ったのはずいぶん後のことでしたが、その当時ですら、「これは何かが違う!」と思わせるものでした。

その複雑に絡み合う音は決してうるさく厭味に聞こえることなく、とても聴きやすいものでした。そして、ボリュームを上げたスピーカーから流れてくる音楽が空間を包むと、不思議な感触が五感を刺激しました。完璧ともいえる音作り。でも、他の才能あるアーティストはこんな音をわざわざ手間ひまかけて作ろうとはしないでしょう。なんとなく、そう思います。

 

その不思議な感触の音にのっかかってくるのがフェリーのヴォーカルです。声量は乏しいし決してライブ向きの声ではない。また歌がうまいシンガーでもない。それなのに、聴いているうちにすっかり彼の声のマジックにかかってしまって、予期せずして意識の深みにはまっていく。これはもう一種のトリック。そしてその音楽を聴いている間はトリップというほかない。

 

また、ブライアン・フェリーの詞には心惹かれる美しいフレーズがたくさんあります。

例えば、DON'T STOP THE DANCE のこんな一節。

Mama says only stormy weather don't know why there's no sun in the sky.

とても示唆に富んでいます。

 

THE CHOSEN ONE のこのフレーズも好きです。

Swollen river I've been thinking words of passion and of sorrow.

増水した川の様子を、心象風景にするなんて...

 

少し内省的にさせられる音と詩世界。

本来、夜に一人で音楽を聴くというのは孤独なことですよね。

 

「美しい」という言葉をやたらと連発するのはちょっと気が引けるのですが、わたしにとって、これは世の中の本当に美しいものの一つ。誰に押し付けるものでも押し付けられるものでもない。ただ、感じとった者の特権で自信をもって言える美しいものの一つなのです。

 

Boys and Girls

Boys and Girls

  • アーティスト: Bryan Ferry
  • 出版社/メーカー: Virgin
  • 発売日: 2000/03/28
  • メディア: CD
今回、この記事を書こうと思ったのは、またしても蟹道楽さんの記事を拝読したことがきっかけです。わたしも当時、このアルバムはLPが擦り切れるほど聴いたものです。今は時折り、買いなおしたCDをじっくり聴きなおしています。
 
For Your Pleasure

For Your Pleasure

  • アーティスト: Roxy Music
  • 出版社/メーカー: Virgin
  • 発売日: 2000/03/14
  • メディア: CD
ロキシー・ミュージック二作目のアルバム。Bryan FerryとBrian Eno という、この後全く別方向を歩んだ二人のブライアンが在籍した最後の作品。ロキシー・ファンにとっても思い入れのある名曲が数曲収録されていて、完成度も評価も極めて高いアルバムです。

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deacon_blue

☆ ROXY MUSIC後期三作からこの作品を経て『ベイト・ノワール』までの五作が歌うたいブライアン・フェリーの真骨頂だったかもしれませんね。
by deacon_blue (2007-02-21 21:33) 

蟹道楽

鯉三さんのおっしゃる、「音数の多さ」、「複雑に絡み合う音は決してうるさく厭味に聞こえることなく、とても聴きやすい」・・・
まさしくROXYが好きな人が感じることなのですよね。
とにかくROXYは”音が良い!”と感じてました。
それは単に録音技術が優れているという事でなく、音の作り方が優れていたのですよね。
ブライアンフェリーは各アルバムで、常に”音の組み立て方”、”効果的な音作り”という、気の遠くなるような作業をやっていたのでしょうね。ファーストアルバムからブライアンフェリーのソロアルバムまで一貫してこのポリシーを貫いていると思います。
駄作どころか、すべて名盤ばかりのROXYとブライアンフェリー。
”美”を追求した曲の素晴しさ、ブライアンフェリーのキャラクター等、
まさしく奇跡のバンドだと思っております。
by 蟹道楽 (2007-02-22 01:14) 

purimaro

夜に一人、お茶や酒でも飲みながらジャズを聴くなんて、
少し贅沢な気分になりますね、お酒がすすみそうです^^
by purimaro (2007-02-22 07:54) 

たいへー

とにかく凝った音作りしますよね。
私は聴き込んではいませんが、チラ聴きでそう思いました。
ロキシーの「アバロン」なんか聴いても、
音は当時の最先端でしたね。
by たいへー (2007-02-22 10:03) 

溺愛猫的女人

こんにちは

好きな音楽の範囲が狭くてジャズは全く聞いた事がないのですが、鯉三さんのお薦めとあるとなんとなく聞いてみたい気になるから不思議です。
以前に紹介されていた保坂和志さんの「生きる歓び」を読んだのですが、谷中の墓地での仔猫との出会いの場面のカラスの描き方が面白いと思いました。
by 溺愛猫的女人 (2007-02-22 11:48) 

鯉三

deacon_blueさん:
ロキシー後期三作は比較的評価しやすいのですが、解散後のソロ作品に関してはいつも『Avalon』と較べられるので、『ベイト・ノワール』までと明確に区分されているのがポイントだと思います。わたしも同感です。
『ベイト・ノワール』までは楽曲のリズムの力強さが抜きん出ていますね。『タクシー』はオリジナル・アルバムではないし、『マムーナ』はイーノが参加!というサプライズがあったけれども、特に秀でた曲がなかった。アルバムの作品性が希薄になった時代性がもろに影響しているのだと思います。
by 鯉三 (2007-02-22 23:56) 

Buji

一日の終りにお酒を飲みながら音楽を聴く喜び・・本当に至福の瞬間だと思います。

B・フェリー(ロキシーミュージック)はアヴァロンしか聴いた事がないのですが、どのアルバムもジャケットが印象的でした。
アヴァロンというアルバム。ジャケットの印象によるものか、MoreThanThisやAvalonの曲の印象からなのか、「いろいろな事を乗り越えてようやく到達した場所」というイメージが昔から頭の中に残っています。そういえばロキシーミュージックとしての最後の作品なんですよね。
by Buji (2007-02-23 01:36) 

鯉三

蟹道楽さん:
Slave to Loveの録音に100回以上のリミックスを重ねたのは有名な話です。日本だと山下達郎なんかが同じような手法で録音するそうです。音への凄いこだわり方ですね。ただそこまで来ると、もう元の音はどこへ行ってしまったんだろうかと思ってしまいますが(笑)。

以前、Fuji VHSのCMで、Don't Stop the Danceがフューチャーされ、本人も出演していました。かなりかっこいい映像のCMでした。ところがキャッチ・コピーが「映像ダンディズム」!こういうイメージは本国イギリスでもあるそうですが、フェリーの音楽を理解しようとする場合、間違ったシグナルになることが多くてわたしは嫌いです。フェリーのライブ・パフォーマンスをご覧になったことがあるでしょうか。巨体をクネクネさせて汗だくになって歌う姿は、決しておしゃれでかっこいいおじさんでも洗練された大人の雰囲気でもありません。むしろそのギャップにとても人間味を感じて、ファンは魅了されるのだと思います。

Balloonさん:
ブライアン・フェリーはジャズではないのですが、夜に聴く音楽としてはとても魅力的で、深い感傷的な気分に浸れると思います。ぜひ、聴いてみてください。

たいへーさん:
音は本当に凝っていると思います。それがロックを愛する人の間で賛否が分かれるところなのだと思います。ただ、Avalonはいつまでも色あせない作品ですね。ロック史に残る名盤で、もっとも美しいロック・アルバムの一つであることは誰もが認めるところでしょう。

溺愛猫的女人さん:
とても個人的な趣味の記事を読んでいただいて恐縮です。それにしても音楽へのこだわりを熱く語る人は、なぜか男性ばかりですね。どうしてなんでしょうか。
保坂さんの本を読まれましたか。作品としては決して面白いものではないと思うのですが、この人は本当に猫が好きなんだなあと感心させられました。あの墓地でのシーン、印象深いですね。仔猫を取り囲むカラスと人々の様子、そういう場面に出くわした時の自分のことを考えてしまいました。

ふじのしんさん:
Avalonの伝説はこの作品のテーマとなり、それがロキシーミュージックというロック史においてもとても稀有な変遷をたどったバンドの終着点を暗示していますね。Avalonのジャケットはロック・バンドのものとはとても思えません。そもそも後期のロキシーの音楽をロックと呼べるのかどうか...『BOYS AND GIRLS』もぜひ聴いてみてください。

かのとさん、ととろさん、nice!ありがとうございます。
by 鯉三 (2007-02-23 18:42) 

seita

ライブエイドの時のフェリーは慣れない太陽光に困ってる感じでした(笑)。D.ギルモアがギターを弾いていた記憶があるんですが、すでに20年くらい前の話なので間違いかもしれません。11PMの今野雄二、PARCOカルチャー、すべてが懐かしいです。
by seita (2007-03-07 22:09) 

鯉三

seitaさん:
間違いありません。ライブエイトの時はD.ギルモアがギターを弾いていました。当時映画のサントラに収められたフェリーの曲でも彼がギターを弾いていました。フェリーに昼間のライブは似合いませんね。太陽の下のフェリーなんて...(笑)。今野雄二は本当にフェリーに恋心を抱いていると思います。
by 鯉三 (2007-03-08 02:02) 

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