古本屋の思い出(中) [本]
“古本屋のバイトほど楽なものはない”
きっと多くの人がそう思っているように、わたしもそう思っていた。
時折り思いついたように棚に並んだ本にはたきをかけ、銭湯よろしく番台に座って自分の好きな本を読んでいるだけでお金をもらえる。まあそれは極端な例だとしても、遠からず古本屋でのアルバイトとはそんなものだろうと思っていたのだ。
ある時期アルバイトを探していたわたしは、大阪梅田のかっぱ横丁というところを歩いていて、とある古本屋のガラス扉にアルバイト募集の張り紙を見つけた。希望していた「週末だけの勤務も可」と書かれていた。これはと思って店の中に入り、バイトのことについて尋ねた。店の人はとてもやさしそうな人で、“明日店長が来るので、その時にもう一度来て下さい”と言われた。
次の日、履歴書を持参して再びその店を訪ねた。店の奥に店長とおぼしき人がいて、その前に座らされた。店長はわたしの差し出した履歴書にはろくに目を通さず、ぶっきらぼうにいつから店に来られるのかと尋ねてきた。どう答えたらよいのかわからず、とにかく週末だけしか入れないと答えた。店長はとても不満そうに、“毎日入ってくれる人がええんやけどなあ”と言った。面接される側が言うことではないが、ずいぶん愛想の悪い人だなと思った。
こうして、古本屋で週末だけアルバイトをすることになった。
阪急電車梅田駅の高架下にあるかっぱ横丁は、「古書のまち」といわれる古本屋の並ぶ通りと居酒屋などの飲食店が軒を連ねる通りの総称だ。本も酒も好きなわたしには学生時代から馴染みの場所だったが、まさかそこでバイトを始めるなどとは想像だにしていなかった。
わたしが働いたその店は、ちょっと他の古書店とは違っていた。本物の浮世絵の版画や和綴じといわれる古い書物が多く、美術品とまではいかないまでも、骨董品と同じように扱いに注意を要する貴重な物が多かった。もちろん一般の書籍も扱っているのだが、それらも高価なものばかりで、“こんな高い本、誰が買うのだろうか”と思うものが多かった。
そういうわけで、常に本の万引きに目を光らせながら店の角に立つことが求められた。この時点で番台に座ってのんびり本を読むなどという安易な考えはかき消された。
この小さな店には、店長と店員さん(番頭さんと言うのがふさわしい)とアルバイトが一緒にいるのだった。それもなんだか変だなと思ったのだが、仕事を徐々に覚えていくうちに、なるほどなと思うようになった。働いたのはわずか半年で、その後わたしは海外に出ることになるのだが、今でもその時のことを懐かしく思い起こすことが多く、あるエッセイ・コミックを読んでから、どうしても書きとどめておきたいと思うようになった。
(下)に続く。
おお!グレゴリ青山さんの本だw
この方結構好きですw
かっぱ横丁とか懐かしいですねぇ~
いつも横目で見て通り過ぎる場所でした。
by りみこ (2007-12-21 09:13)
かっぱ横丁でバイトされてたんですね~!
初めて知る古本屋の実態、楽しみです。
by 鰯母 (2007-12-21 09:55)
おはようございます。
かっぱ横丁♪ 久しぶりに名前を聞きました。
専門書って高い上に儲けが少ない本なので普通の本屋さんって入れないんですよね。取り寄せできる本屋はマシなぐらいです。
そう言う本や古書を置いているお店は確かに万引きに注意ですね!!
次も楽しみ!!
by くみみん (2007-12-21 10:19)
わ~大好きな本に囲まれてのバイトなんて良いですねー
でも万引きの見張りじゃオチオチ本など読んでいられませんね^^;
う~ん、続きが気になる、、、、、
by purimaro (2007-12-21 12:53)
楽な仕事じゃなかったのね・・・(汗
万引き監視要員からスタートした訳ですね。(笑
by たいへー (2007-12-21 18:47)
あら~!かっぱ横丁でバイトなさってたんですか。
どのお店で働いていらっしゃったか、わかります。
いつもは書店で新しい本を買うことが多いんですが、
今度ゆっくり古本屋で本を物色したいと思いました。
by coco030705 (2007-12-21 18:52)
古本屋さんも万引きに気をつけないといけないのですね。
町の小さな本屋さんが店をしめるきっかけが万引きだとニュースで
聞いたことがありさびしいなと思いました。
古本屋さんも同じなのでしょうね。いい本はいつまでたってもいい物
大事にしたいですね。
by べっこら (2007-12-21 22:12)
かっぱ横丁・・・数ヶ月大阪に行っていたときお世話になりました。
確かに、浮世絵や掛け軸、相当古いような書籍を扱うお店もありましたね。
by 花火師 (2007-12-22 04:10)
僕は中古レコード屋とJAZZバーのおやじに憧れるのですが、古本屋のおやじというのも、中古レコード屋のおやじと似通ったものがあるのではないでしょうか?
カッパ横丁、久しぶりにその名前を聞きました。
もう何年も歩いておりませんでした。
by 蟹道楽 (2007-12-22 09:21)
バイト内容が、万引き監視の仕事だったとは・・(ノ∀`)
鯉三さんの文章を読んでいると、
あの古本屋さんの香りがふっとするような・・気がします。
あ、カビくさいってワケじゃないですよー(笑
続きが楽しみです。
by tano (2007-12-22 13:14)
かなり立派な古本屋さんだったんですね。扱っているものがものだけに興味深いエピソードがたくさんありそうです(^^。
次回、楽しみにしています。
by Buji (2007-12-22 13:34)
阪急沿線に住んでいたので、
ぶらっとでかけるといえば梅田。
大人になってからは、三番街や茶屋町によく通いました。
今でも帰った時に必ず寄る洋服屋さんがあります。
カッパ横丁のエリアは別世界でしたね。
今にも掛け軸の絵が浮かんできそうです。
by ミタタロウ (2007-12-22 20:47)
そうですね^^ 傍から見れば
古本屋さんほど暇で楽な商売に見えますもの、、
でも始めてみると裏側が見えてくる!?ふふふっ
好きなものに囲まれて仕事になるなんて、
どんなに幸せか、、と考えるものですが
実際にはどんなに好きなことでも、お仕事にはお仕事の苦労が
つきものですね~ さてさて甘い夢が打ち砕かれたその後がきになりますねぇ~うっふふっ(*´-`*)ゞ
いつも鯉三さんの文章に惹きこまれちゃいます、、
次の続きも楽しみにしていますね♪
by symphony (2007-12-22 21:04)
りみこさん:
グレゴリ青山さんをご存知でしたか!わたしはこのコミックを友人に送ってもらったのですが、それまではまったく知りませんでした。
あらら、りみこさんも大阪で過ごされたことがあったのですか。もしかして、ご出身がそうなのでしょうか。
鰯母さん:
たった半年間のバイト経験では古本屋についてなどとても語れないので、思い出だけを書きたいと思っています。
kumiminさん:
わたしがバイトした古書店は専門書も多かったのですが、そういう本は売れなくても同業者の間で守っていかなければという雰囲気があるようです。古い本でも、文学全集などのバラは価値がほとんどないようです。別にそういうことを知っても何の役にも立つわけではないのですが、なんだかおもしろいなと思ったものです。
Balloonさん:
わたしが店にいた時には、幸か不幸か万引きは発見されませんでした。素直によかったと思います。ひまな時間が多かったので、読書をしたかったです(笑)。
たいへーさん:
別に大変な仕事ではなかったのですが、わたしはあまりにも古本屋の仕事を簡単に考えていたのです。それは世の中をなめているようなもので、今は反省しています。
ココさん:
おわかりになりますか!(お恥ずかしい)。
いやいや、お店は立派なお店です。実はかっぱ横丁は支店なのです。船場には由緒ある本店があります。
古本屋でじっくり時間を過ごすなんて、とても贅沢な時間ですよね。わたしは台湾へ来てからそういうことをしていないので、それがとても不満なのです。
べっこらさん:
わたしもそのニュースを聞いたことがあります。本当に心を痛めます。図書館なども、利用者の持ち帰りが多くてその損失はばかにならないとのことです。お金を出して本を買うという行為は、それ自体とても有意義なことだと思うのですが...実に悲しいことです。
花火師さん:
お仕事の合間にこんなところへ足を運ばれていたのですね(それともその奥の居酒屋へ通われていたのでしょうか...)。
おっしゃるとおり、そのお店です。ちょっと敷居が高いです。
蟹道楽さん:
蟹道楽さんには退職後、ぜひ中古レコード屋かJAZZバーをやっていただきたいです。その折はすぐさまおじゃまします。
わたしは阪急沿線しか馴染みがないので、自然にこういうところを歩くようになりました。
tanoさん:
当初は本当に万引き監視の仕事だと思いましたが、実は短い間にもいろいろなことを教えていただきました。実際、「もしかして、自分に合っている仕事なのかな」と思ったくらいです。
かびくさい文章!いえいえ、そんなのを書いてみたいと思っているのです。でも、残念ながら文章力が伴いません(笑)。
ふじのしんさん:
たくさんのエピソードがあればよかったのですが、やはり半年のバイト経験では何も語れないなというのが正直なところです。下記のコミックに刺激を受けて書いてはみたものの、わたしの体験談は薄っぺらさが際立ってしまいます。
ミタタロウさん:
そうですか、そういうおなじみのお店があるのですね。いいですね。わたしは飲食店だけです。もちろん、昔から働いている人が今もそこにいれば嬉しいのですが、やはり入れ替わりが激しいようです。でも、古書店は昔のままであることが多いようです。今度帰国した際は、かっぱ横丁を歩いてみたいものです。
symphonyさん:
いくつになっても世の中を甘く考える習慣は変わらないようで、だからこうやって文章にしながら自分を戒めているのです。もうすでにいろいろ失敗を重ねてきたのに、まだ甘い夢を追うなんてね。
でもどんな仕事であっても、仕事は仕事と割り切っていても、どこかで「自分はこの仕事が好きだ」という気持ちをもっていたいなと思っています。
by 鯉三 (2007-12-23 00:44)
引越しで本を2箱売ったばかりです。
手放すのは寂しいけれど、それでも捨てるよりは売るほうが、
本達のためには、はるかにいい事だと、自分に言いきかせて、
泣く泣く手放しました。
それでも今から取り戻せるのなら取り戻したい…!
本とは不思議なものです。
古本屋さんでのアルバイトの経験があるとはうらやましいです。
by りる (2007-12-23 01:19)
前記事より拝見させていていただきました。
学生の頃は、古本屋さんによく通っていたのを今思い出しました^^;
そうだ、私は結構、本を読んでいたのだったのだなーと。
今は山のような楽譜に囲まれております^^;
by ゴーパ1号 (2007-12-23 22:27)
本は読むことが目的で買うわけですが、
所有すること自体に嬉しさを見出すこともしばしばです。
本屋の棚で、偶然に出会う本、探して探して見つけた本。
大分では古書店がほとんど姿を消してしまいました。
ドキドキしながら、本を持ち込んだことを思い出しました。
by iharaja (2007-12-24 14:22)
鯉三さん、とってもお久しぶりです!ちょっとバタバタしてまして・・・やっと覗きにきました。
お母様と台湾で楽しい日々を過ごされたのですね。よかったよかった。
ラー&豆子、見る度にええ感じに仲良くなってって、これまた嬉しい(^ ^)
パソコンやテレビ見てる時に上に乗ってきたり、追いかけっこして激しくじゃれてるかと思うと、2人で思いに耽りながら(?)外を眺めていたり・・・
うちのワンコも同じことしてます。今も私の膝の上にいますヨ
ラー&ま豆子は幸せやわ~鯉三さんにきれいに写真を撮って、blogに残してもらって。うちは私の記憶の中だけ・・・
何回か写真も撮ってますが、なかなか「これ獲りたい!」って時には獲れなくて、寝顔の写真ばかり・・・
また間が空くかもしれませんが、遊びにきますね~
by harry (2007-12-24 14:33)
こんにちは。
私が小さい頃、古書店に通っていたのですが、本について尋ねると、
すぐに返事が返ってきていたのを思い出します。そのたびに、本屋さんってすごいなあと思ったものでした。
鯉三さんは読書家なので、こういったバイトにふさわしいなあと思います。
お話の続きを楽しみにしています。
by sweet_grass2006 (2007-12-24 15:07)
りるさん:
引越しをする時、わたしも多くの本を手放しました。つらいですね。でもその本が誰かの手に渡って読んでもらえるのなら、いいことだなとも思います。
古本屋でのバイト経験は短かったのですが、とても有意義なものでした。
ゴーパ1号さん:
そうですか、ゴーパさんも古本屋に通っていらっしゃったのですね。楽譜に囲まれる!大好きな音楽の源ですよね。これもいいな。
iharajaさん:
そうなんですよ。所有することの喜び!そして出会いですよね。
古書街に流れる空気はいいものです。本が好きな人が集まってくる場所ですから、なんだかみんなちょっとした同志みたいで(笑)。
harryさん:
お久しぶりです。おかげさまで、ラー&マメは仲良く元気に暮らしています。二匹になってから、帰宅するのがより楽しくなりました。
写真はうちも同じで、なかなかシャッター・チャンスには出会えません。寝ている写真が多いのも同じです。でも、またそれが動物の可愛い瞬間なのですよね。
sweet_grassさん:
そんな本の専門家がいなくなるのは寂しいことです。おおげさな話ではなく、知の財産だと思います。そういうものは消えてはいけないと思います。
昔は普通に「趣味は読書」と言っていたのですが、最近は恥ずかしいくらい本を読んでいません。自戒を込めてこの記事を書いています。
by 鯉三 (2007-12-25 01:12)
鯉三さん
メリークリスマス☆ 楽しい夜をお過ごしください!
by 花火師 (2007-12-25 01:41)