この人この曲（6）Toots Thielemans:Bluesette

大阪でサラリーマンをしていた頃、久しぶりに会った友人と酒場をはしごしているうちに最終電車に乗りそこねたことがありました。友人は運よく電車に飛び乗ることができたのですが、わたしが乗るべき列車はすでに行ってしまった後でした。次の日が休みだったので、無理してタクシーは利用せず、日本橋にある国名小劇というとても小さい映画館で、始発の電車が動く時間まで一夜を明かしました。

この映画館、今もあるのかどうかわかりません。いわゆるミニ・シアターであり、日本ではマイナーなヨーロッパの映画を中心に上映する映画館でした。入替制ではなかったことが幸いでした。

残念ながら、その時三回も繰り返し観た映画なのに、タイトルもストーリーも覚えていません。多少酔っていたせいもあるのでしょうが、これほど記憶に残らなかった映画もまれです。

ただ、休憩時間に繰り返し流れていた音楽だけは忘れることができません。それはとても珍しい、ハーモニカによるジャズの演奏でした。12月の冷たい風が時折出口から吹き込んでくる待合室で、そのハーモニカの音色は切なく心に響きました。

 

それが、TOOTS THIELEMANSのハーモニカでした。

 

トゥーツのライブは二度観ました。大阪ブルー・ノートと台北の中正祈念堂でのライブです。どちらもすでに円熟期を通り越した、ご老体での演奏でしたが、実に味わい深いステージで、会場はやわらかくて温かい空気に包まれました。

ハーモニカは人の声に最も近い楽器だと言われます。実際彼のハーモニカの音色は人間の声に負けないくらい歌心に満ちています。CDで何度も聴いている曲でも、じーんとさせられる演奏がいくつかあります。ライブでもおなじみのDAYS OF WINE AND ROSESやビリー・ジョエルとの共演曲・LEAVE A　TENDER MOMENT ALONE、パット・メセニーのALWAYS AND　FOREVERでのサビでのハーモニカのソロなど、その他にもいくらでも挙げることができます。

Bluesetteはトゥーツのオリジナル・ヒット曲ですが、ハーモニカは登場しません。代わりに彼の素敵な口笛とギターを聴くことができます。この口笛は本当にすごくて、彼のハーモニカの演奏ととてもよく似ています。

わたしが観たライブでも最後にこの曲を取り上げていましたが、口笛はさすがにもう無理のようでした（現在84歳なのです）。ギターの演奏もミスが多くて名演とはいきませんでしたが、持ち前の茶目っ気でごまかすところがこの人らしく、観ていてとても楽しかったです。

 

これからの寒い季節、少し早く家へ帰って部屋を暖かくしながら、トゥーツのハーモニカに耳を傾けてみるのはいかがでしょうか。

In Tokyo

• アーティスト: Toots Thielemans
• 出版社/メーカー: Denon
• 発売日: 1994/06/28
• メディア: CD

これはお気に入りのライブ・アルバム。Amazonで視聴できます。

コメント 16

とっても素敵ですね。さっそく試聴してみました。
今夜、もうちょっとよく聴いてみよう＾＾
by ゴーパ1号 (2006-12-04 11:29) 

こんにちは。
ミナミ日本橋懐かしいです=＾-＾=国際名画小劇場？映画祭で復活したんですよね。
ハーモニカっていい音ですよね。
この方は聞いたことはありませんがパッとメセニーならあるかもしれないので探してみよう！でも、LPじゃ聞けない(;_;)です。
by くみみん (2006-12-04 11:44) 

楽器を自分の一部のように自由自在に弾いたり吹いたりできる
人って本当にうらやましく感じます。
ハーモニカは時によっては声よりも切実に思いを伝えてくれる
楽器のような気がします。
ライブアルバムのジャケット、かっこいいですね。聴いてみたい！
by 鰯母 (2006-12-04 18:06) 

いいですね。　心が温かくなりそう。
最近ハーモニカの音を聴いてないな・・・
by たいへー (2006-12-04 18:29) 

はじめまして。つんといいます。私も91年だったか92年だったか、大阪のブルーノートで、トゥーツおじさん見ました。同じライブかな？ブルーゼットは一番好きな曲です。
by (2006-12-04 18:57) 

部屋を探しました。ありましたシールマンスのＣＤ。ヴァイオリンのステファン・グラッペリとの共演のアルバムです。スタンダード曲をＪＡＺＺとしては珍しい楽器同士で共演しているのでオーディオ的に面白いかなと思って購入したものですが、（久し振りに）聴いてみるとなかなか良いものですね。（シールマンスの口笛、上手いです。）

特殊な状況（場所）で、すっーと耳に入ってきた音楽に心を奪われる事って、よくありますよね。
by Buji (2006-12-04 20:56) 

ジャズはピアノトリオのものしか持っていなくて
ハーモニカのジャズがあるなんて知りませんでした。
今度探して聴いてみたいと思います＾＾
寒い夜はジャズですか。
洋酒のきいたチョコと一緒に楽しんでみます＾＾
by きみどり (2006-12-04 23:18) 

ゴーパ1号さん：
早速聴いていただけて、とても嬉しいです。
これは、音楽を好きな人ならどなたにでもお勧めできるものと思っています。音楽には歌心が大切だと常々思っています。

kumiminさん：
国名小劇、復活したのですね。映画祭だけだったら、ちょっと寂しいのですが、とりあえず嬉しいニュースです。ここは毎日オールナイトだったのです。わたしはこの界隈で二年ほど過ごしました。ほろ苦くも懐かしい思い出が詰まっている場所です。

鰯母さん：
本当にそうですね。わたしは楽器がまったくできないので、言葉以外の表現ができる人たちをとても羨ましく思います。特に音楽は言葉以上に人の心の琴線に触れる場合があるので、すごいと思います。

たいへーさん：
あのオーディオ・ルームで一度聴いていただきたいです。

つんさん：
初めまして。ご訪問いただき、ありがとうございます。
わたしはもっと後のライブだったと思います。たしか98年だったかと。
ちらっとブログを拝見したのですが、音楽にとてもお詳しく、そして本当にお好きなのだなと感じ入りました。また、後ほどゆっくり拝見させてください。

ふじのしんさん：
ステファン・グラッペリとの共演のアルバム、まだ聴いたことがないのです。どちらもジャズのその分野では第一人者で、後に続く人がいないんですよね。ステファン・グラッペリもいつか取り上げてみたいなあと思っていました。トゥーツはとても気のいいおじさんというイメージが完全に定着しています。

きみどりさん：
ぜひ聴いてみてください。ちなみにトゥーツは晩年のビル・エバンスとも共演しています。これもなかなかいいですよ。きみどりさんご夫婦はお酒を嗜まれなかったのですね。洋酒のきいたチョコ、いいんじゃないでしょうか。お茶を飲みながらもいいと思います（実は昨晩それをやって、全然眠れなくなって困りました）。
by 鯉三 (2006-12-05 00:22) 

大阪はキタでしか映画を観たことがなく
ミナミはよく知りません、ゴメンナサイ
ハーモニカは魂の郷愁を誘うようで素敵ですね
子供の頃得意だったハーモニカも
今はきっと吹けないでしょうね
by (2006-12-05 08:20) 

良い思い出ですね＾＾
その時々に聞いた曲や流れていた音楽というのはいつまで経っても
忘れる事ができませんよね＾＾当時のことが蘇ってくる気持ち
よーく解ります♪トゥーツのハーモニカ聴いてみたいです＾＾
by purimaro (2006-12-05 11:49) 

ハーモニカとジャズの組み合せ、ぜひ聴いてみたくなりました！
うちもジャズ（音楽）はすきで東京のブルーノートには月１ペースで聴きに行っています。生活の中に音楽があることが自然になってきました。
でもこむぎはつねっちの弾くギターの音で逃げます。三線の音は大丈夫みたいです。ハーモニカはどうだろう？
by サクラコ (2006-12-05 15:08) 

ハーモニカの音色ってとっても素敵ですよね。
人の声に最も近い楽器だと言われるのも頷けます。
私もトゥーツのハーモニカを聞いてみようかな（＾＾）

ところで・・・鯉三さんのお言葉に甘え
ぜひぜひバトンをお渡ししたいと思います。
５つの質問に答えるというものですが
私hinaも近いうちに記事をＵＰしますので
ぜひぜひよろしくお願いいたしますm（_ _）m
by hinagorogoro (2006-12-05 20:41) 

琥珀さん：
「ハーモニカは魂の郷愁を誘うよう」
本当にそうですね。
ちょっと切なく、でもどこか暖かい音色ですね。

Balloonさん：
なんだか、わたしの音楽記事はいつもこんなのばかりですね（笑）。
それだけ、最近は新しい音楽を聴いても「いいなあ」と思うことが減ったのだと思います。トゥーツのハーモニカ、ぜひ聴いてみてください。

サクラコさん：
おお、サクラコさんご夫婦はブルー・ノートにそんなに頻繁に行っていらっしゃるのですか。それはすごい！ご主人はギターを弾かれるのですね。かっこいいなあ。こむぎちゃんのお気に入りの楽器！うーん、ハーモニカは口が動いているから、それを見てきっと安心しそうな気がするのですが。

hinaさん：
トゥーツのハーモニカ、ぜひ聴いてみてください。これは、そんなにマニアックなものではないので（笑）。

バトン、謹んでお受けいたします。
記事はゆっくり書いてくださいね。その方がこちらも気合が入ります。でも、誰にお渡しするか、これがかなり難しくなってきました。この猫バトン、最初にバトンを渡す人を一人と限っておけばよかったのになあ、と思います。
by 鯉三 (2006-12-06 01:05) 

花火師さん、nice!ありがとうございました。
by 鯉三 (2006-12-06 01:06) 

鯉三 さん
TOOTS THIELEMANSのハーモニカ僕も大好きです。
優れたミュージシャン特有のことですが、TOOTS のハーモニカってすぐに解りますよね！
高音部がきれいに伸びる気持ちよいサウンドです。
ALWAYS AND　FOREVERでのサビでのハーモニカのソロ！
ホント最高です！
by 蟹道楽 (2006-12-07 00:26) 

蟹道楽さん：
蟹道楽さんのパット・メセニーの記事で、SECRET STORYについても触れていらっしゃいましたね。ALWAYS AND　FOREVERはパットのギターも素晴らしく美しいですね。トゥーツのハーモニカのソロが入る時はいつも涙腺がゆるくなって困ります。
by 鯉三 (2006-12-07 01:21)