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「泥の河」 [映画]

最近のNHK・BS映画劇場は、どんなラインナップなのだろうか。
過去にはいい映画をたくさんVHSで録画させてもらったものだ。
その中のひとつが「泥の河」。

原作は宮本輝の小説。
宮本輝の幼少期をモチーフにした作品は、戦後の大阪や兵庫県の町を舞台にしたものが多く、
個人的に、亡くなった父の記憶と重なって懐かしく思うものが多い。
そういう感傷抜きでも、作品はとても優れているので宮本輝という作家が好きだ。

この作品を映画化したのは小栗康平。
大変寡作な監督だが、どの作品も取り組む原作やテーマへの思い入れが感じられる。
「泥の河」は全編モノクロで撮影されているが、この映画は確かにモノクロでしか表現できなかったように思う。夏のうだるような暑さ。食堂に集まる労働者の顔や彼らのランニングシャツをどす黒く濡らす汗。
物語を紡ごうとする役者たちの真摯な姿はすがすがしくもある。

そして、忘れてはならないのが主人公の子供たち。
お小遣いをもらって祭りに出かける子供たちの高揚感、その後に間をおかずしておとずれる絶望感。ただただ、痛切としかいいようのない、現実の残酷さ。
まるでぜんまい仕掛けのおもちゃのねじが切れたように感情が揺さぶられ、涙が止まらなかった。

付け加えたいのが、マルセ太郎という稀有な芸人がこの映画を一人語りで演じてしまったこと。
わたしは結局、生(なま)で目撃できなかった(NHKのテレビ中継では見た)。大学時代の友人が熱く彼のことを語ってくれたことを思い出す。

この作品には、人に語らずにはいられない、何か普遍的なテーマがあるのかもしれない。

蛍川・泥の河

蛍川・泥の河

  • 作者: 宮本 輝
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1994/12
  • メディア: 文庫

小栗康平監督作品集 DVD-BOX

小栗康平監督作品集 DVD-BOX

  • 出版社/メーカー: 松竹
  • 発売日: 2005/06/29
  • メディア: DVD


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コメント 7

takepii

こんにちは。実は映画は見ていません。原作がすごく好きです。ご本人宮本輝さん自身がこの映画は本当にいいと、昔の随筆で言われているのを見ました。
見たいですね、これを見てしみじみ思いました。
by takepii (2006-03-29 22:46) 

ウス

初・マルセ太郎さんの舞台が「泥の河」でした。本も映画も見ていませんが、
「うだるような暑さ」の空気感は、強烈に残っています。表現方法は違いますが、
最近は立川志らくさんのシネマ落語が気に入っています。
by ウス (2006-03-29 23:21) 

鯉三

たけぴさん:
そうですか、宮本輝本人がこの映画を気に入っているんですね。
わたしは宮本輝の短編作品が特に好きで、描かれている風景やその土地の人間に感情移入してしまいます。一方、小栗監督は日本映画界の中で今ではかなりアーティスティックな監督として知られていますが、この「泥の河」は低予算ながらも、監督の作品への思いが前面に出ていると思います。役者たちの不慣れな大阪弁はご愛嬌です(芦屋雁之助は別です)。

うすさん:
ここでも書いたように、テレビではマルセ太郎を見たのです。
十分引き込まれたし感動もしたのですが、やっぱりそれはちがうと思ったのです。これは舞台だと。目撃できなかったことが返す返すも残念でなりません。
by 鯉三 (2006-03-29 23:58) 

hama

マルセ太郎さんの一人芝居(殺陣師段平物語)を亡くなられる2年前くらいに観にいきました。
癌と闘いながらの舞台でしたが、その迫力にのまれてしまったのを覚えています。もう、あの舞台を見れないのは本当に残念ですね。
by hama (2006-03-30 10:46) 

鯉三

hamaさん、マルセ太郎までご覧になっているとは!

晩年の舞台は壮絶だったようですね。
芸人としての生き様は凄いものがありました。
公演後の打ち上げが面白かったようです。
観客とも気さくに酒を飲み、楽しそうに語らっていたそうです。
わたしもそこに加わりたかった。
by 鯉三 (2006-03-31 01:53) 

サイトーマコト

それまで、マルセ太郎氏のことを全く知りませんでしたが「スクリーンのない映画館」というチラシのタイトルに惹かれ、名古屋の七ツ寺共同スタジオという芝居小屋へ出掛けました。公演の感動もさめやらぬまま、打ち上げまで参加してしまいました。その日は、竹中直人監督作品「無能の人」にマルセ氏と共演した名古屋出身の神戸浩氏も打ち上げに顔を出し、愉しいエピソードを聞くことができました。すっかりファンになり、その後何度かマルセ氏の公演を見に行きましたが、アンケートを書くと、そのコメントに応えた自筆の礼状を送ってくれました。ベテランらしからぬ、きめ細かい心遣いに感動しました。
そんなマルセ氏の晩年に舞台を共にした趙博(ちょう ばく)氏が「歌うキネマ」と題し、映画の一人語りを行っています。河合塾英語講師であり歌手である趙博氏は、その歌声を活かし、マルセ氏とはまた異なる独自の世界を作り上げています。「マルコムX」ではギターを片手に英語で歌い、「風の丘を越えて〜西便制」では、プク(朝鮮半島の太鼓)を鳴らしてパンソリ(朝鮮半島の浪曲のようなもの)をしっかり聞かせてくれます。「ホタル」(高倉健主演)のアリランを歌うシーンでは、思わず涙をこぼしました。「風の丘」も「ホタル」も映画より良かったくらいです。趙博氏が在日朝鮮人ということもあり、題材も朝鮮・韓国のことや差別のことを取り上げて、より深い切り口で映画を語ってくれます。この4月には、名古屋の七ツ寺共同スタジオで「砂の器」を上演します。(マルセ氏も同じ場所・同じ演目で演じました。)少し前にテレビドラマでやっていたのとは異なる、本物の「砂の器」です。(マルセ氏も趙博氏も丹波哲朗だけは似ていました。)機会があればぜひ観てほしいです。

趙博氏「歌うキネマ」http://www.fanto.org/utaukinema.htm
by サイトーマコト (2006-04-15 00:08) 

鯉三

マルセ太郎について熱く語ってくれたのは、他ならぬサイトーマコトくんでしたね。今、サイトー君が深く関わっている在日朝鮮人の問題、韓国・朝鮮の文化についてもマルセ太郎との出会いが大きかったのではないかと推測しています。七ツ寺共同スタジオというのは大須でしたかね。名古屋にも行ってないなあ。仕事の出張で名古屋へ行った時は電話だけで会えませんでしたね。
by 鯉三 (2006-04-15 19:37) 

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