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音楽三昧の映画三本 [映画]

以前の記事でもご紹介した、台湾の四都市を巡回するThe Imprint of Sound 「馨音的痕跡」影像V.S音楽影展。当初は「全部観てやる!」と意気込んでいたものの、日程の都合とOne Plus One-Sympathy for the Devilのチケットが全てSold Outになるなどして、結局観ることができたのは三作品だけでした。

台北之家

上映会場の台北之家はもともと日本統治時代に建てられたもので、その後中華民国のアメリカ領事館として利用されていたました。現在は侯孝賢監督らが中心になって、ここを台湾やアジアの新しい映画を発信する拠点にと、様々な映画会や講演会が開催されています。その他にも映画に関する書籍やDVDなどを販売するショップが併設されていて、ぶらっと立ち寄るにもいいところです。コロニアル風の建物はきれいに補修され、レストランやカフェもあり、夜は賑やかな中山北路沿いにありながら、静かで落ち着いた雰囲気をかもしだしています。

上映を待つ人々

 

今回観ることができた三作品はどれも素晴らしいものでした。

Tosca's Kiss (Il bacio di Tosca)  

監督のダニエル・シュミット、カメラのレナート・ベルタは名コンビ。美しく幻想的な映像は、作品を単なるドキュメンタリーとは一線を画すユニークなものにしています。それしても驚くのは映画の舞台が養老院であるということ。しかも、ここで生活する人々はかつてオペラ歌手だったり、指揮者だったり、音楽大学の教授だったりと、すべて音楽家なのです。こういう施設が100年以上前に開設されたということが更に驚きでした。

老人ばかりが出てくる映画なのに、溢れんばかりの生のエネルギー!廊下であろうと、自室であろうと、気の向くままに歌声をあげる元オペラ歌手たち。かつての舞台衣装を得意気に取り出し、いつしか薄暗い物置が舞台になってしまっていたり...忍び寄る老いの気配を感じながら、生ある限り人間としての輝きを保とうとする人々の姿に感動しました。

Moro no Brasil

 
ミカ・カウリスマキ監督が、寒風吹きすさぶフィンランド・ヘルシンキの道を歩く。強風で足元を這うように吹き流れる雪が、やがてサンバのリズムと重なり、次の瞬間には灼熱の太陽が照りつけるブラジルの大地へ!映像と音の見事なマッチングから始まるこの映画は、まさに音楽の洪水でした。
サンバのルーツを探るカウリスマキ監督は、はじめこの地に古くから住む先住民や奴隷として運ばれてきた黒人たちの音楽に目を向けるのですが、やがて一つの答えにぶつかります。サンバは生活する人々の言葉であり、リズムなのだと。つまり、ブラジルそのものがサンバなのだと。
音楽を作る人にとって、魅力的な音のサンプルがゴロゴロ転がっているブラジル。それらの更に魅力的なものだけが都会へ流れ込み、宝石の原石が磨かれるようにして洗練されていくさまは、あの世界最強のサッカーと同じなのだなあとつくづく感じ入りました。
もうすぐワールドカップ。開幕初戦のブラジルのゲームが楽しみで仕方ないわたしは、この映画を観て再びブラジルの魅力にとりつかれてしまいました。

Glenn Gould Hereafter

グールドのピアノを弾く姿が大画面で映し出されただけで、鳥肌がたってしまいました。目の前にあの天才がいて、しかもピアノを弾いている!

突然の演奏活動の停止はもとより、ピアノを弾きながら発するうなり声(鼻歌)、ピアノを弾くには低すぎるように思える椅子、片時も放さない手袋、時におそろしく饒舌にしゃべることなど、グールドの奇人ぶりについては語りつくせません。しかし、彼の弾くピアノの美しさに比べたら、これ以上の驚きなどありません。

今回改めてわかったことは、こんなに偉大な天才が私たちのような凡人を前に、音楽についてわかりやすく丁寧に解き明かそうとしていたことです。ステージでの一切の演奏活動をやめ、テレビやラジオを通して語り続けたグールド。

わたしたちは彼の勇気ある実験に立ち会うことが許されたのです。こんなに素晴らしい贈り物があるでしょうか。


 

トスカの接吻

トスカの接吻

  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • 発売日: 2001/02/23
  • メディア: DVD

 

モロ・ノ・ブラジル

モロ・ノ・ブラジル

  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • 発売日: 2004/06/19
  • メディア: DVD

 
*ここでご紹介したグールドの映画はまだDVD化されていないようです。

 


nice!(7)  コメント(11) 
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コメント 11

gillman

グールドのピアノいいですよね
音楽にジャズもクラシックもない
音楽自体と向き合っている彼の姿勢が好きですね
by gillman (2006-06-05 09:52) 

ぶなねこ

こんなすごい養老院があるのですか!現実に!?
よく、老人ホームに訪問演奏とかは聞くけれど、この養老院にはむしろ若者の方から通って、いやしてもらえそうですね。
グールドの弾く姿は見たことがありません。CDしか。
by ぶなねこ (2006-06-05 21:22) 

鰯母

素晴らしい映画を堪能されたようですね!
それにしても雰囲気のある建物ですね。
日本の映画館は趣がないからなぁ。
鯉三さんの記事を読んでまたいい刺激を受けました!
by 鰯母 (2006-06-05 21:48) 

genzo

素敵な景色で^^♪
なんだか、ぽわ~っと見とれてしまいました。
映画も十分堪能したのですね~♪
最近映画を見ていなかったので・・・なんだか
見てみたくなりました!とてもよい記事ですね~。
by genzo (2006-06-05 23:35) 

鯉三

nice!&コメント、ありがとうございます。
一般にはあまり知られていない映画ですし、上映される機会も少ないと思われますので、自分自身の記憶に止めるためもあって書きました。

gillmanさん:
まったく同感です。
グールドは真に純粋な人だったような気がします。音楽への思いの深さがすべてで、名誉欲など無縁だったのでしょう。

ぶなねこさん:
「トスカの接吻」、ぶなねこさんご夫婦にはぜひ観ていただきたいです。古い映画なので画像はあまりよくないかもしれませんが、音楽が人生を彩っている、こういう人々の生き方は素晴らしいとしか言えません。

鰯母さん:
台湾は中国や韓国と違って、日本時代の建築を後世に残そうとしています。それは負の面、正の面もあわせての意味であるところが、台湾のおおらかさであり、懐の深さだと思うのです。

genzoさん:
映画、堪能しました。
劇場で4時間くらい座りっぱなしというのは結構つらいのですが、そういう一つのものとじっくり向き合うことは、この年になるとなかなか難しいものです。そういう点では、幸せな時を過ごせました。
by 鯉三 (2006-06-06 00:21) 

tomomo

素敵な雰囲気の建物ですね。外見もいいし、
ふらっと寄って刺激をもらえるというのがいいですね。
好奇心のアンテナが伸びる気がします。
紹介されていた映画はどれも知らないものばかりでしたが、
Tosca's Kiss 気になります。
by tomomo (2006-06-06 01:38) 

しまパパ

どの映画も魅力的ですが、
特に「Tosca's Kiss」は見てみたいですね!
自分が今まで音楽をやってきた事もあるのですが
自分の中でもう一度、大切なものを再確認、
再発見するために、よい機会を与えてくれそうな映画ですね。
by しまパパ (2006-06-06 07:28) 

okinawa-fan

気になっていた映画が全部見られなくて残念でしたが、たまには
こうした映画祭的な機会に、いろんな気になるものを見るというのは
いいものですよね。最近「これはちょっとコアかも・・・」と思ってみても
結構すぐ話題になってしまい、いいときとちょっとあれ、ってときが・・・。
でも、「ホテル・ルワンダ」が日本でもじりじり上映館がひろがった時は
よかった~と思いましたけれど。
by okinawa-fan (2006-06-06 14:51) 

鯉三

tomomoさん:
建物はもちろんですが、前庭の緑もきれいで、昼夜を問わずここでお茶を飲むとちょっとした贅沢な気分にひたれます。前の通りの交通量が多いので、それが少し残念です。「トスカの接吻」、ぜひご覧になってください。

しまじろうさん:
しまパパも音楽をやっていらっしゃったんですよね。「トスカの接吻」はビデオやDVDで見ることができると思いますよ。音楽は構えて接するものではなく、もっと自分の内から自然に現われてくる感情。そんなことを思わせる映画でした。

okinawa-fanさん:
「ホテル・ルワンダ」、わたしも観たいです。台湾でも上映されていたはずです。字幕が中国語なので、なかなか映画館に足が向きません。今回は音楽に関する映画だったので、その点ではよかったです。まだ今でも心地よい余韻が残っています。
by 鯉三 (2006-06-07 00:03) 

くみみん

こんばんは。blogへのご訪問ありがとうございました。
台湾に住んでいらっしゃるのですか?
すてきな建物ですね。昔の建物をこういう風に使うなんてお洒落です。
グレン・グールドの発言集って言う本も出ていますよね。変わり者みたいですが、いい人だったのでは?って思います。
by くみみん (2006-06-07 23:37) 

鯉三

kumiminさん:
お越しいただき、ありがとうございます。
グールドは真の芸術家だと思います。まったく世慣れていないし。
猫記事も書いていますので、よろしければまたいらしてくださいね。
by 鯉三 (2006-06-08 00:38) 

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